ED72

ED72 1, 2 鹿児島本線の門司港-久留米間電化開業用先行試作機として,1961年8月と10月にそれぞれ1号機と2号機が落成しました。久留米電化で所要となる電気機関車は,客車用が22両,貨物列車用が22両であり,前者がED72,後者がED73となりました。ED721, 2はこれら44両の第1陣として登場し,データが残り42両の本設計にフィードバックされることになりました。ED72 1, 2ED71がベースとなっており,製造にはED71で経験のある東京芝浦電気があたっています。ED72は九州線内の蒸気暖房装置に対応するため交流機では初のSG搭載機となり,中間従台車TR100を装備してBo-2-Boの軸配置として全長を17.4mに延ばし,SG搭載スペースを確保しています。こうして,ED型でありながらEF60の16.0mよりはるかに長い車体となりました。また,SG装置の水や燃料の容量変化によらず動軸重を一定に保つように従台車の重量配分を制御しています。さらに,動力台車DT119は軸重移動を抑制するよう逆ハリンク動力伝達方式を採っています。最大軸重16.3t,動輪上重量64.0t,機関車重量83.4t,主電動機は512.5kWのMT103,歯車比1:4.53,クイル式,1時間定格2,050kWとなっています。水銀整流器は風冷式イグナイトロンのRM2,主変圧器は風冷式のTM6,高圧タップ切換器はHTC-5を採用,制御方式は主変圧器の高圧側をタップ切換えし,整流器の自動格子位相制御も利用した組み合わせ式としています。車体は非重連式のため非貫通型となり,妻面は”く”の字状のふくらみを持った独特の形状となっています。ヘッドライトは2灯が並んで配置されています。車体側面のフィルタや最高窓の配置,形状はEF60によく似ています。端面スカート上部には通風口が設けられています。ED72 1は1961年8月11日に雑餉隈-折尾間で公式試運転を行っています。当時門司機関区構内はEF10が配置されていた関係で直流のままとなっており,ED72 1は当初南福岡電車区に仮配置されていました。試験の結果,10‰の勾配上で目標とした1,200tの引き出し性能を満足し,1,300tの引き出しにも成功しています。これら1, 2号機はその後門司機関区に配置されています。

ED72 3-22 ED72 1, 2の試験結果を反映した量産機として1962年4月7日-9月29日までに東京芝浦電気で製造されました。試作機からの変更点は,主電動機を新標準のMT52に変更し定格を475kW,1時間定格出力を1,900kWに変更,駆動方式もクイル式から吊り掛け式に,歯車比は1:1.44に変更,台車はDT119からDT119Aに,中間従台車はTR100からTR100Aに改められています。最大軸重は16.3tから16.7tに,総重量は83.4tから87.0tに増大しています。そのほか,高圧タップ切換器がHTC-5Aに,MC104主幹制御器がMC107に,屋上のCB101空気遮断器がCB101Cに変更されています。外観に関しては,前照灯の2個のシールドビームが左右に分かれて配置され,車体側面のフィルタ,採光窓もEF70と類似のデザインに変更されて大きく印象が変わっています。

分類 機関車番号 製造年 製造所 発注区分名 発注名目 仕様相違点・履歴
試作機 ED72 1x ED72 2x 1961年 東京芝浦電気 昭和35年度
債務負担
鹿児島本線門司港-久留米間電化開業用 車重83.4t,クイル式,主電動機MT103,定格出力2,050kW,歯車比1:4.53,前照灯2灯を運転台上部中央に配置,エアフィルタと採光窓を並べて配置,1,2共1976年廃車,1号機は2003年から九州鉄道記念館で保存
量産機 ED72 3x ED72 4x
ED72 5x ED72 6x
ED72 7x ED72 8x
ED72 9x ED72 10
ED72 11 ED72 12
1962年 東京芝浦電気 昭和36年度
第1次債務
鹿児島本線門司港-鳥栖間客車列車EL化用 車重87.0t,吊り掛け式,主電動機MT52,定格出力1,900kW,歯車比1:4.44,前照灯2灯を運転台上部左右に分散配置,側面エアフィルタの上列に採光窓を横一列連続配置,1978-1982年に廃車
ED72 13 ED72 14
ED72 15 ED72 16
ED72 17 ED72 18
ED72 19 ED72 20
ED72 21 ED72 22
1962年 東京芝浦電気 昭和36年度
第2次債務
鹿児島本線門司港-鳥栖間客車列車EL化用

ED72 1
No.D200_20110429-51
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
昭和の日,25年振りに門司港を訪問し昭和の静態保存機を撮影して来ました。鹿児島本線門司港-鳥栖間の電化の立役者ED72 1。シールドビーム2灯が中央に寄った配置は珍しく,量産型のスマートな形状とは随分印象が異なります。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-46
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
ED721は1961年8月11日,東京芝浦電気にて落成しました。東芝の銘板。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-47
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館

1END側の乗務員扉付近
(2023/02/23追加)
No.D200_20110429-48
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館

自慢の鳩胸がよくわかる角度。1END側。区名札はもちろん「門」が入っています。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-56
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館

スカート上部の通風口は塞がれています。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-97
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
80mm望遠で迫った運転室部分
(2023/02/23追加)
No.D200_20110429-98
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館

ヘッドマークステーが特急牽引機であることを主張しています。Hゴムは黒Hゴムで,後年に取り替えられたものと思われます。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-100
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
1ENDの側面からパンタ周り。屋上へ登るはしご部分は来館者が上がらないように同色の板が取り付けられています。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-101
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
車体側面中央部と屋上
(2023/02/23追加)
No.D200_20110429-103
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
2END側のパンタが上がっています。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-119
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館
パンタグラフはPS-100
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-104
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館


量産型ED72の洗練された姿を見たいのですが,高望みというもので1号機がこうして美しい状態で保存されているだけでも感謝すべきことなのでしょう。
(2023/02/23ワイド化)
No.D200_20110429-118
2011年4月29日
ED72 1
九州鉄道記念館



1END側の広角縦カット
(2023/02/23追加)

 2011年4月30日 ページ新設
 2022年9月25日 機関車発注区分表をページトップに移設
 2023年1月25日 機関車発注区分表に仕様相違点・履歴を追加
 2023年2月23日 機関車発注区分表の機関車番号記載方法変更
 2023年2月23日 写真ワイド化完了
 2023年2月23日 キャプション欄左右入替完了


■ 参考文献
 交流・交直流電機出生の記録[4]  藤本勝久 鉄道ファン319 1987年11月号 交友社
 交流・交直流電機出生の記録[5]  藤本勝久 鉄道ファン320 1987年12月号 交友社


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